三菱ふそう、ハブにまた強度不足・交換部品リコールへ

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懐かしいというか、未だやってんの?という感じのニュースが出たので、僕も業界経験者として内情の暴露と問題提起をしてみたい。
一般の人は「なぜ何度もリコールしているのに不具合が無くならないのか?」という至極もっともな疑問を持つと思うが。理由は大きく分けて、次の3つが考えられる。

①対策方法が本当にわからない

これはメーカーとしては情けない話だが、不具合の原因がなかなか特定できない事もままある。先ず「どういう不具合がどのくらい起きているのか」という情報収集がうまくいかず現状把握に手間取る。次に現象は明らかになったが、どういうメカニズムで起きているのかわからない。また、設計上の問題(構造・形状・材料)なのか生産上の問題(設計通りに作れていない)のか判らない場合もある。ただこれは問題が自然収束しない限り、遅かれ早かれ明らかになっていくことであり、4年も5年も経って対策が決まらないというのは通常考えにくい。

②対策方法は判っているが、設計変更によって莫大なコストがかかるのでやりたくない

設計変更という書き方をしたが、別に改良ヴァージョンの図面を書くのにそれほど工数がかかるわけではない。問題は恐ろしく高価な部品になるとか、関連部品も変更せざるを得ないとか、生産ラインの大幅な変更が必要などのケースだ。そうなると、本当は根本的に直した方が良いとは判っていても、そのためのコストが膨大なため、小変更でお茶を濁すことがある。その結果、後になってちょこちょこと不具合が再発するのだ。
たとえば、この「ふそうのハブ破損」に関しては現象が明確で歴史もある不具合なので、原因が特定できていないとは考えにくい。よってこの②くさいと僕は見ている。あるいは次の③との複合か。

③対策方法は判っているが、まともにリコールするとコストが膨大なので、できるだけ小出しにしよう

これはどういうことかというと、リコールをする場合の対象車があまりにも多いケースだ。「リコールの対象車って大体3年くらいさかのぼるの?」なんて聞いてくるお偉いさんが居たが、そうではない。リコール対象車は不具合が起きたのと同じ構造を持った車両全てである。従って同じパーツを使っていれば、別の車種であってもどんなに昔のモデルであってもすべてリコール対象となる。
そこでメーカは何とかして対象車を減らしたいと考える。その方策の一つが闇改修だ。これはリコールと公表せずに、何か他の理由(定期点検とか)でお客を呼んで、こっそり対策品に交換してしまう事だ(もちろん自分で異常に気付いて持ってきた人は最優先で交換)。「そこまでやるならリコールすれば良いじゃん、そんなに世間体が大事なのか?」と思うかも知れないがさにあらず、闇改修するのはリコール対象のうちのごく一部なのだ。比較的新しい車とか、トラックなど商用車であれば大口顧客の車両とかを手当する。そのあたりを押さえておけば、騒ぎは大きくならず(リコールに発展せず)にすむだろう、というわけだ。
あるいは、同じリコールするにしても、本当の理由を公表してしまうと対象車両が膨大になるので、二セの理由を作って「この欠陥があるのは、○○年から使われているこのヴァージョンの部品だけですよ」ということで、対象車を絞ってしまい、それらに本物の対策を施して騒ぎが鎮静化するのを期待するという手法もある。

インパクトレンチで締めたら亀裂ができるハブって…

昨日あたりのニュースで事故のメカニズムについて報道されていたので少々補足したい。
「ディーラではトルクレンチで既定トルクでハブボルトを締め付けずに、インパクトレンチだけで締め付けてしまうため、ボルト及びハブに亀裂が生じ破断につながる」といった内容だった。率直な感想は「ええ!そんなのってあり?」である。
まず、トラックの整備工場で使われるインパクトレンチってそんなに強力なのか?正確にいうと、マニュアル上の規定トルクと一般的なインパクトレンチのトルクはそれほど乖離しているのか?という疑問が生じる。
これが一般の乗用車なら、ユーザーが車載工具でスタットレスタイヤに交換するにせよ、街の用品屋でタイヤ交換を頼むにせよ、真面目にトルクレンチを用意して締め付ける方がレアケースでしょ。一般に大型トラックの整備がどんなにお行儀よくなされているかは知らないが、「仮にインパクトで締めても大事には至らない設計」をするのが常識ってもんじゃないかい?
まあ、そのあたりは三菱も重々承知していたんだと思う--非常に余裕のない設計である事も、ディーラーが理想的な整備をしないだろう事も、ユーザーが過積載をすることも。だからこそディーラーに向かって「摩耗状況を確認しながら、ヤバそうだったら交換して」なんてとんでもない要求をしていたのだろう。そうすべては問題先送りのために。

リコール制度の実情

ここまで読んで「じゃあ、騒ぎが大きくならなければリコールしなくて良いのか?」と突っ込みたくなるかもしれないが、現実には当たらずとも遠からずなのだ!
国交省によれば「保安基準を満たしていないか、その可能性がある場合」はリコールしろ、ということになっている。しかしこれはメーカにとっては非常に曖昧でどう解釈して良いのかわからない基準なのだ。
リコール届出とは何ですか| 自動車のリコール・不具合情報
保安基準とは車検の時にチェックされるような、ライト類とかスピードメータとかブレーキとかがちゃんと作動して、車高タンとか改造マフラーはダメよみたいな話だが、もちろん工場からラインオフされたばかりの新車が保安基準に引っ掛かるなんて事はない。
メーカにとっての問題は経年変化がどうなるかだが、例えば「走行何キロ以内に何%の車両で、保安基準を満たさなくなったら、その部位はリコールしろ」みたいな基準は無い。あくまでメーカが「保安基準を満たさない可能性はあるかないか」を自分で判断し、必要があれば国交省に「リコールしますよ」と届けるだけだ。
しかし、だからと言って、メーカの判断が常に尊重されるかといえばそうでもない。国交省から内々のチェックというかご指導があるらしいし、風評が広がれば客商売なので何らかの対応をせざるをえない。あとマスコミに目を付けられるとかなりマズイ。事故がスクープされて大々的に取り上げられ、本来は不具合の内容も件数も微々たるものなのにリコールせざるを得なくなる、なんて事もある。
要は実質的な判断基準がない中、できるだけ不具合を隠蔽し、ユーザ、国交省、マスコミの顔色をみつつ、そのまま行けそうならしらを切り、こりゃもうダメとなったら「リコールしますー!」と言って謝る(ただしその場合もできるだけ範囲を狭めたい)。実情はこんな感じかと。

三菱ふそうの実力

しかし、だからと言って「どの会社も似たようなものだ」とか「マスコミによる三菱たたきだ」などと三菱信者のような事を言うつもりはさらさらない。このハブの件のように恒久対策だと言いつつ、何度も同じ不具合を繰り返したのは他に例がないほど重大な失態だ。これはもうメーカとしての実力の問題だし企業体質の問題だ。
小手先の改善を小出しにして、何度もリコールをするくらいなら、一度に本物の「恒久対策」をやった方がトータルダメージも少なくて済むのは判っていたはずだ。しかし、それをしなかったのは、自分達が経営トップの時に巨額の特別損失を計上したくない、という責任逃れの為だろう。まさに、トップ同士のかばいあい、問題の先送り、事なかれ主義、そしてとんずらという典型的な日本型組織の問題が見て取れる。