企業はなぜ新卒を採用したがるのか

このところの好景気を反映して、企業の新卒採用が増えているという。即戦力が欲しいはずの今時の企業が何故?と思うかも知れないが、これは高度成長期の時と同じ理由だろう。そう、従順な人間が欲しくなったのだ
組織というのは自らの保身を図ろうとする。あまりに優秀過ぎて組織その物を改変させてしまうような人材を採用してしまうと、自分達(役員)の首を飛ばしてしまいかねない。なので、世間ずれしていなくて洗脳しやすく、適度に優秀(与えられた範囲の中でテキパキ処理できる)な人材が欲しい。だから新卒なのだ。
新卒者(求職者)の方も、金銭的に苦労している親や少し先輩のニートの現実を見ているので「やっぱり大企業の正社員だね」と保守化傾向がかなり進んでいると見た。つまり需要者と供給者のニーズが妙にマッチしているのだ。

封建制の復活

企業は利益の最大化を目指すと、組織の改編を常に迫られるし、従業員も忠誠心より利益を生み出せる人材をということになる。高度成長期のように、忠誠心だけで価値を生み出さない社内ニートを大量に養うことはもはや不可能だ。
しかし、だからと言って僕が以前提唱したような「全員契約社員」のようなフラットな組織だと、自己保全能力が低く崩壊の危険がある。なので、企業は少数の忠誠心のあるものを正社員として囲い込み、組織の維持に当たらせる。その他の業務はいわゆる非正規雇用者またはアウトソーシングで賄う。
江戸時代に例えるなら、藩主=社長、家臣=役員、藩士=正社員、町人・百姓=パート・アルバイト・派遣社員といったところだ。
この国は利益を最大化のためにフラットでフレキシブルな組織を目指すのではなく、今だに組織を維持そのものが至上命題であり、そのために身分制度を採用しているのだ。ああ、何と美しい国なんだろう。

開国と幕藩体制の崩壊

ありきたりかも知れないが、今の日本の状況は幕末→明治維新の時代と似ている。黒船=IT産業(Googleやインド人技術者)、開国=グローバル経済、幕藩体制の崩壊=小さな政府・規制緩和身分制度の廃止=組織のフラット化である。
しかし、このような変革の時代には必ず社会不安が起こって攘夷論者が現れる。これまでは超平和で競争が無い、老後も安心。それなりに技術も発展しインフラも整っていたし、苦手な異人もいない。なのに何故この秩序を変える必要があるのか。外敵を追い出してしまえと。
今の日本でも「海外に出て儲けるのはやめて、日本の中だけで自給自足の慎ましい生活をしよう」みたいな考え方が出てきた。しかし、今時国産食材だけの料理を食べたり、国産の衣服だけで過ごすなんて、一部の特権階級だけに許された贅沢だ。慎ましい一般庶民が海外産の安い商品なしで暮らすことなど考えられない。第一国産化が殆ど不可能なエネルギー資源を外貨なしにどうやって調達するのかと。こんなちょっと考えたら破たんするような、主体思想みたいな発想が自称インテリから出てくるのは嘆かわしい限りだ。

もうここらではっきり覚悟すべきなんだ。鎖国というオプションはありえないことを。問題は完全開国すべきか否かではなく、いつやるかということだ。混乱を恐れてダラダラやるということは、バブル後すぐに不良債権処理をせずに、10年もかけて損失を拡大してしまったのと同じ過ちだ。

企業だって安い労働力を求めて海外に工場を移転したり、研修生という名目で外国人を低賃金で働かせたりする。しかしその一方で、外資が日本企業を買収できないように(役員が追い出されないように)政治に働き掛けている。つまり、都合のよい部分だけ開国して都合の悪い部分は鎖国でブロックしているのだ。

日本人は一体いつからそんなに自信をなくしてしまったんだろう?自分は単純労働しかできないと思っているのか?インド人技術者が進出してきたなら、受けて立とうって気概はないのか?別の強みで勝負する気もないのか?ただ内にひきこもる、ニート国民に成り下がってしまうのか。
優秀な若者は有力藩に仕官する(大企業に就職する)のではなく、自ら起業すべきだろう。そうすれば、組織の保全に熱心な従来型の企業は淘汰され全体の競争力はUPするはずだ。